ブドウの誤嚥による窒息事故報告

誤飲事故を防ぐために

誤飲とは、食べ物ではないものを誤って飲み込んでしまうことです。
誤嚥(ごえん)とは、食べ物・飲み物の飲み込みがうまくいかず、食道ではなく気管に入ってしまうことです。

食物の誤嚥は、窒息による生命の危険を伴います。
また、短時間で異物が除去されても、誤嚥性肺炎の発生や、
低酸素脳症による障害が残ることもあります。

誤嚥の事例

【事例1】 2歳6か月/男児

発生場所は自宅です。母親が同席している食卓に座り、ブドウ(直径3cm大、皮をむいた種なし、今回が初めて)まるごと1個を一人で食べていました。特に風邪の症状や啼泣(泣きやまない状態)もありませんでしたが、突然咳き込んだ後に泡を吹いて意識消失。母親が誤嚥を疑って慌てて手で掻き出そうとしましたができず、救急車要請となりました。その後、男児を抱いて家の外に出た際、通行人の方にハイムリッヒ法を施行され、ブドウは一塊で排出され、直後より啼泣が認められました。発症後約5分の奇跡的な経過でした。救急搬送後よりチアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色)が出現しており、胸のレントゲンでも異常が認められましたが酸素投与で呼吸状態は安定し、酸素を中止。窒息後の経過観察を目的に入院。4日目、胸のレントゲンで改善傾向を確認、6日目に退院となりました。ブドウ誤嚥による上気道閉塞の解除後、陰圧性肺水腫を合併していた症例です。

【事例2】 1歳6か月/男児
発生場所は自宅、母親は不在でした。今までブドウを食べたことがありませんでしたが、父親がブドウの皮をむき、丸ごと1個を男児の前のお皿に置きました。父親の目の前で男児がブドウを手に取って口に入れたところ、直後に顔面蒼白・唇のチアノーゼが出現。父親が背部を強打するも顔色に変化がないため救急車要請。救急隊が現場に到着した時、心肺停止と判断し心肺蘇生を開始。口腔内吸引でブドウの一部が吸引され、心肺蘇生を継続しながら救急外科に搬送されました。喉頭展開をしたところ、気道からブドウの一部が吸引できたものの、両側瞳孔拡大・対光反射は認められませんでした。様々な処置によって心拍再開し、集中治療室へ入院、心肺停止後症候群に対し各種治療が行われましたが脳死とされうる状態となり、約3か月後に亡くなりました。

誤嚥に注意しましょう

  • 1. 窒息を引き起こす果実類としては、ミニトマト・リンゴ片・ブドウなどが知られています。消防庁や救命救急センターからの報告では食品による窒息死の7~10%が果実で占められており、食品による窒息はほぼ同じ頻度で起こり続けていると考えられています。
  • 2. 乳幼児は、歯で噛み切る・臼歯ですりつぶす機能が未熟であることから5歳未満のリスクが高くなっています。また、一口サイズで吸い込んで食べるものはリスクが高いです。
  • 3. アメリカの小児科学会による発表では、食品による誤嚥で10歳未満の子供が毎年70人前後死亡しています。(厚生労働省の調査によると日本では毎年20人以上の乳幼児が死亡)。危険な食品として、アメ・ピーナッツ・ブドウ・リンゴ・ポップコーン・ガムが挙げられています。子ども側の危険因子としては、食物をよく噛んですりつぶす能力が育っていなかったり、食事中に別のことに気がとられやすい4歳未満の子どもや、咀嚼や嚥下障害を持つ子ども、食事中の歩行や会話、早食いなどが挙げられています。

日本小児科学会雑誌 こどもの生活環境改善委員会より

日常的によく口にする食べ物も、年齢や食べ方によっては窒息の原因となる可能性があります。日本小児科学会は、飲み込む力が未発達の5歳頃までは、豆類を食べないように呼び掛けています。ピーナッツやアーモンドなどの豆類(豆類入りチョコレートも含む)は、気管に詰まる可能性があります。気管支の奥で炎症が起きたり、細菌感染の恐れも出てくるため注意が必要です。

のどの断面図

誤嚥の予防

●適切な大きさに切る
食べ物は適切な大きさに切ってあげていますか?お子さんは、まる飲みしていませんか?特にブドウやミニトマトなど、ある程度の硬さがあり、球形で、外表がスムースで口腔内を滑りやすい果実や野菜を食べる時は、1/4以下の大きさに切ってあげる必要があります。また、よく噛んで食べようねと教えていきましょう。
●座って食事に集中できる環境を作る
お子さんは食べながら寝転んだり、歩いたり、遊んだりしていませんか?食べている時にお兄ちゃんやお姉ちゃんが急に大声を出したり、背中を押したり、驚かせたりしていませんか?食事中は遊んだり歩いたりせず、きちんと座って食事に集中するよう見守ってあげましょう。急に驚かせたりすると、泣いて飲み込んでしまう危険があります。上のお子さんの様子にも気をつけてあげましょう。
●食べる機能の発達に合わせた食品選び
食べる機能(噛む力や飲み込む力など)の発達には個人差があります。
年齢ではなく、お子さんの食べる機能の発達に合わせて食品を選びましょう。

咽頭異物の対処法

奥へ押し込んでしまう可能性があるため、口に指を入れて
取ろうとしてはいけません。

①と②は、頭を低くして、みぞおちを圧迫するようにして背中の真ん中を平手で4~5回叩きます。③は腹部を上方へ圧迫します。事例1のように合併症を起こすこともあるため、窒息状況から改善されても経過観察の必要があります。異物が取れない・意識がない場合は、すぐに119番通報して下さい。
お子さんが誤嚥事故に遭わないよう、家族みんなで気をつけてあげましょう。